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2026/11/01 劇団アンパサンド「立ち止まるには近すぎる」


・福井夏さんのポストから始まった話

今回のお芝居を知ったきっかけは推しの舞台俳優さんである福井夏さんのポストでした。といっても、私は全公演を追いかけるような熱心なファンではなく、気になる作品があれば観に行く程度のゆるいファンです。福井さんが劇団アンパサンドの出演者変更のお知らせを引用していたのをたまたま見かけて、「あれ、こんな公演があるんだ」と詳細を見に行ったのですね。

いや、正確にはその時に「知った」わけではありませんでした。

後から確認したら、もっと前に「出演します」という告知ポストがあって、しっかり私もイイネを付けていたのです。

見てるじゃん。

しかもイイネまで押してるじゃん。

それなのに見事に忘れていました。

なぜそんなことになったのかというと、その頃は観劇予定がまったく立たなかったからです。

以前は観劇仲間のきなこさんと出かけることが多かったのですが、今は長女と観劇することがほとんどです。ところがその長女が「11月から新しいことを始めるからスケジュールがどうなるかわからない」と言い出しまして。

さらに当時は柿喰う客の20周年最終公演を最優先で考えていました。

本命のお芝居ですら予定が確定していないのに、さらに別の劇団のお芝居まで予定に入れるのはさすがに難しいだろう、と。

そんなわけで告知を見たときは、「面白そうだけど今回は無理かな」とスルーしてしまったのでした。

ところが後日、出演者変更のお知らせが流れてきて何気なく詳細を見に行ったところ、思わぬ情報を発見します。

なんと、城山羊の会『水仙の花 narcissus』で印象に残っていた安藤輪子さんも出演するというではありませんか。

それを見た瞬間、

「あ、これは行かないとダメだ」

と急に観劇スイッチが入りました。

さらに調べてみると、本作は「演劇界の芥川賞」とも呼ばれる岸田國士戯曲賞を受賞した次の新作とのこと。

もともと気になる俳優さんが出演しているうえに、その情報まで知ってしまったらもう駄目です。「これは行かないと後悔するやつだ」という変な確信に変わってしまいました。

 

・当日券という最後の望み

とはいえ、その時点で前売券は当然ながら完売済み。

残された希望は当日券のみです。

初日はたまたま別件で休みを取っていて、用事は午前中で終わる予定でした。お芝居は19:30開始なので、「用を済ませてから劇場へ行って並べば何とかなるかな」くらいに考えていました。

ところが調べてみると、当日券は劇場で並ぶわけではなく、当日の朝10時にスマホから申し込んで整理券を先着順で取るシステムとのこと。

これがなかなか手強い。

電子チケット自体は何度か使ったことがあるのですが、やっぱり私は紙のチケット世代なので、現物が手元にないと妙に不安になってしまうのです。

スマホの中にチケットがありますと言われても、「本当にこれで入れるんだよね?」という気持ちがどこかに残るんですよね。

しかも慣れないアプリなので操作方法もよくわからない。

正直、かなり面倒だなぁと思いました。

ただ、よく考えてみると合理的な仕組みでもあります。シアタートップスの前はそれほど広くありませんし、当日券目当ての人たちが路地に集まったら近隣にも迷惑がかかってしまいます。

それに整理券が取れなければ、その日の予定を別のことに使うこともできます。

劇場側としても、お客さんとしても、案外お互いにメリットのある仕組みなのかもしれません。

とはいえ、その頃の私はそんなことを考えながらも、毎朝10時になるとスマホを目の前にして整理券争奪戦に挑むことになるのでした。

 

・当日整理券チャレンジ

当日券を手に入れるためには、毎朝10時からの整理券争奪戦を勝ち抜かなければなりません。

こうして私の5日間にわたる挑戦が始まりました。

 

・初日

まずは初日。

慣れないスマホアプリとWebサイトを行ったり来たりしているうちに操作がもたついてしまい、気づけばわずか1分も経たないうちに

予定枚数終了

の文字が。

早い。とにかく早い。

あっけなく初日は終了となりました。

 

・2日目

この日は仕事日。

10時直前になったら少し席を外してチャレンジしようと考えていました。

ところが休み明けということもあって仕事が山積みです。

私は手元にある仕事をさっさと片付けてしまいたいタイプなので、気が付けば目の前の仕事に没頭。

ふと時計を見ると10時15分。

終わった。

もちろん整理券も終わっていました。

 

・3日目

前日の失敗を踏まえ、この日は早めに準備しようと考えていました。

ところが10時直前になって上司が話しかけてきます。

この上司、自分の考えをまとめてから話すのではなく、話しながら頭の中を整理するタイプなので最初のとっかかりから何を言いたいのかがよくわからない。とにかく枕が長い。噺家の枕ならいくらでも長くても良いのだけど仕事となるとオチ(結論)から先に言ってもらわないとこちらとしてもどうしたらよいのかわかりません。さんざん聞いたあげく、結論としては同僚社員への愚痴だったりするので、「その話を私に振られても困るんですけどね……」という気持ちにもなったりします。

こちらとしてはもうすぐ本日の整理券チャレンジが迫ってきているのでいつものように長々と話を聞いている時間はないのだけどー。

このままでは10時を過ぎてしまう……!

と焦っていたら、その気持ちが顔に出ていたのか、普段よりは早めに話を切り上げてくれました。

とはいえ、その時点ですでに数分前。

急いでスマホを操作しているうちに10時を迎え、結局この日も

予定枚数終了

のお知らせを眺めることになりました。

 

・4日目

土曜日です。

この日はボードゲームクラブ朝霞に参加。

開始時間は朝9時なので、会場に着いてからゲームの合間に申し込めばいいだろうと考えていました。

ところが「リコール」の準備を稲月さんとスギボさんと一緒にしていたら、インスト無しでそのままスムーズにゲームに入って、気づいたときには10時を優に過ぎていました。

なんということでしょう。

完全に自爆です。

 

・5日目

そして迎えた最終日。

この日はUPGS:S部会の日でしたが、こちらの開始は13時。

つまり家を出る前に、じっくり整理券チャレンジに集中できます。

というより、この日が東京公演最後のチャンス。

泣いても笑ってもこれが最後です。

アプリとWebサイトの移動も何度も練習しました。

画面の遷移後に押すボタンの位置もおおよそ把握済みです。

よし、あとは10時を待つだけ。

……と思ったところで、とんでもない表示を発見しました。

携帯電話番号が登録されていないとチケットは申し込みできません

えっ。

今それ言う?

最初の登録時に言ってくれればいいのに。

一気に青ざめながら携帯番号登録に挑戦します。

何度か試行錯誤を繰り返し、なんとか登録完了。

これでようやくスタートラインです。というか、今まで気づいていなかったのかよ自分。

10時の5分ほど前からスマホをPCのキーボードのパームレストに置いて待機。

心の中で秒読みを続けます。

5、4、3、2、1……

10時!

ページ更新!

ボタンを押す!

画面遷移!

さらに押す!

申し込み完了!

結果は……

じゃじゃーん。

 

・そして整理番号1番へ

Screenshot

なんと整理番号1番!!!!!

思わず声が出ました。

整理券が発行されても必ず入場できるわけではないと案内には書いてありましたが、さすがに1番で入れませんということはないでしょう。

やったー、やっと報われた~!!! という思いで心臓がバクバクです。

ただ、ここで浮かれている場合ではありません。

なにしろ整理番号1番とはいえ、きちんと時間までに劇場へ辿り着かなければ意味がないのです。

浦和駅を何時に出れば間に合うのか、どの電車に乗ればいいのか、何度も乗換案内を開いてシミュレーションしました。

ただ、かなり動揺していたのでしょう。

家を出る時点でスマホの充電が3分の1ほどしか残っていなかったのに、モバイルバッテリーを持つのを忘れました。

さらに、途中で買おうと思っていた安いペットボトル飲料も買い忘れ、結局現地で自販機の高い炭酸飲料を購入することに。

お芝居以外の部分についてはかなりボロボロでした。

それでも集合時間に遅れるわけにはいきません。

ボードゲーム会の会場から少し早めに着くよう電車に乗り、新宿へ向かいます。

そして現地に到着。

ところが、シアタートップスのある路地側のシャッターは閉まったまま。

待っている人も誰もいません。

そこでようやく気づきました。

私は

開演10分前までに集合

という案内を、

開場10分前までに集合

と勘違いしていたのです。

早く着きすぎた。

めちゃくちゃ早く着きすぎた。

とはいえ、遅刻して入れなくなるよりは百倍マシです。

幸い近くには紀伊國屋書店もあります。

周辺をぶらぶらしながら1時間ほど時間を潰し、いよいよ劇場への階段を上ることになったのでした。

 

・まさかの最前列

当日券なので、てっきり見切り席か、一番後ろの席か、それとも通路席あたりかなと思っていたんですよ。ところがチケットに手書きされていた番号を見てびっくり。なんとA列11番、最前列の上手(客席から見て右)側でした!

舞台との距離は1mくらい。立ち上がって手を伸ばしたら握手できるんじゃないかと思うくらいの近さです。近い!

ということで、「立ち止まるには近すぎる」のタイトル伏線回収完了……なわけないか。

客席はもちろん満席。当たり前ですね。東京公演の千秋楽ということもあってか、俳優さんつながりの関係者らしき方も多く見かけました。ナイロン100℃の看板俳優が出演していることもあり、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんやナイロンの俳優さんの姿も。

全体的に年齢層は少し高めだったような気がします。もっとも、私は最前列だったので、開演してしまえば他のお客さんの様子なんてほとんど分からなかったんですけどね。

 

・ネタバレしない感想

舞台は、とあるマンションのエントランス広場。広すぎず狭すぎずといった広さで、中央には観音開きのガラスドアがあり、片方の取っ手が壊れてだらんと垂れ下がっています。上手には集合ポスト、下手には掲示板コーナー。そして普段ボードゲーム会でよく見かけるような長机とパイプ椅子が一脚置かれています。

マンションの住人が一人、外から戻ってきます(アケミだったか大久保だったか、もう忘れてしまいました)。集合ポストを開け、中に入っていたチラシをチラシ専用のごみ箱へ捨てる。すると、どこかの部屋から陽気な音楽が流れてきては途中で止まる、ということが何度も繰り返されます。

住人は少し気にしながらも部屋へ戻ろうとするのですが、そこで別の住人である真壁から「豆板醤のビンの蓋が固くて開けられないので手伝ってほしい」と声をかけられます。試してみるものの本当に固くて開かない。さらに別の住人が帰ってきて加勢し、また別の住人が帰ってきて加勢し……という流れを繰り返し、登場人物6人全員が揃ったところで、真壁があっさり蓋を開けてしまう。そんな第一幕から物語は始まります。

住人たちが次々と加わりながら、それぞれの人となりや背景が自然に紹介されていく構成は、どことなく城山羊の会のお芝居を思い出しました。しかもそこへ、思わず頷いてしまうような「あるある」ネタが次々と盛り込まれているのでとても面白い。冒頭の陽気な音楽は「マツケンサンバ」の冒頭の部分というフックも完璧。

お客さんも東京公演千秋楽という雰囲気だったのか、あるいは関係者が多かったのか、とにかく序盤から客席がよく温まっていました。冒頭の軽いジャブのようなボケから笑いが起こり、その後も笑い声が絶えません。

後から知ったのですが、劇団アンパサンドの安藤圭さんは城山羊の会の作品を何度も観て研究しているそうで、「なるほど!」と妙に納得してしまいました。

推しの福井夏さんは一番最後に登場します。最後に出てくるなら飛び道具的な役回りなのかなと思っていたのですが、登場した瞬間からなぜか息が上がっていて、まともに話すのも大変そうな様子。二度目の登場でも同じように息を切らしてぜーはーしています。

観ている最中は特に不自然には感じなかったのですが、このブログを書きながら「そういえば、なぜあんなに息を切らしていたんだろう?」と考えていました。すると後半で明かされるある事実と組み合わせた瞬間、「ああ、そういうことか!」と腑に落ちたのです。

ネタバレになるので詳しくは書きませんが、あの演出にはちゃんと理由があり、特に説明台詞があったわけでもないのに、後から振り返ると「あれはそういうことだったのか!」とちゃんとわかるようになっていました。ひとつひとつのピースがカチっとはまった感じがして謎解きができたような感覚になり、脚本の巧みさをあらためて実感したのでした。

登場人物のサキは先を見据えることが大事とこの中で一番凛とした第一印象。俳優の安藤輪子さんの第一声から声がとても通って力強かったです。自分の選択に自信がある背筋がピンと一本通ったやり手のキャラクターにとても合っています。

第一幕のテンポがとてもよく、小気味よい会話の応酬で進んでいくのでほっこりするコメディ路線なのかなと思ったら、サキの一言で雲行きが怪しくなり、そこからどんどんと物語が加速して最後はホラーにまで発展するのだけど、ホラーなのになぜか声を出して笑ってしまいました。怖いのは苦手なのでホラー映画はほとんど観ないのですが、ホラーシーンで声を出して笑ったのは人生で初めてかもしれません。俳優さん達はいたって真剣に次々と凄惨なシーンを演じているのだけどあの装置が出てくるだけで何が起こるかわかるので三度目にはもう装置が出てきただけで笑ってしまうということに。あれはずるいって(褒めてます)

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